【コラム】サーモメトリック滴定による酸価および塩基価の迅速測定
2026/05/26
記事
酸価(AN)および塩基価(BN)は、石油製品の品質管理において重要な指標であり、製品仕様において規定されていることも少なくありません。これらのパラメータは、ASTM D664、ASTM D2896、ASTM D974などの各種規格に基づき、電位差滴定または光度滴定によって測定できます。しかし、電位差滴定は測定に時間を要する場合があります。また、電位差センサーの洗浄は手間がかかるだけでなく、再現性の低下を招くこともあります。
こうした課題に対して、迅速かつ信頼性の高い代替手法としてサーモメトリック滴定があります。さらに、サーモメトリック滴定による酸価測定については、ASTM D8045という規格も制定されています。
本記事では、以下の内容をご紹介します。:
酸価(AN)および塩基価(BN)を測定する理由
酸価は、石油製品中に含まれる酸の量を示す指標です。原油中に含まれる弱酸(ナフテン酸など)は、製油設備の腐食と関連しています。また、石油製品は経時変化によって酸が蓄積することがあり、その結果、モーターやエンジンの腐食リスクが高まります。
このような酸の蓄積を防ぐため、潤滑油などの精製石油製品には塩基性添加剤が添加されています。これらの塩基性添加剤は弱酸を中和し、腐食の防止に役立ちます。塩基性添加剤の量は、塩基価(BN)によって評価することができます。
サーモメトリック滴定とは
サーモメトリック滴定(TET)は、エンタルピー変化の原理に基づく滴定法です。あらゆる化学反応にはエンタルピー変化が伴い、その結果として温度変化が生じます。滴定中の温度変化を高感度サーミスタ(図1)で測定することで、滴定の終点を求めることができます。
サーモメトリック滴定の基本原理についてさらに詳しく知りたい方は、当社ブログ記事 「 サーモメトリック滴定 ― パズルの最後のピース 」をご覧ください。
ANおよびBN測定においてTETが最適な選択肢である理由
酸価および塩基価の電位差滴定では、すべての試料が溶媒混合液に溶解するわけではないことに注意が必要です。また、溶解する場合であっても、良好な再現性を得るためには、各滴定後の電極コンディショニングを含む複数の洗浄工程が必要になります。
光度滴定は、着色していない試料に対しては代替の終点検出法となりますが、溶解性の問題は依然として残ります。これらの課題に対し、ASTM D8045に準拠した酸価のサーモメトリック滴定は理想的な解決策を提供します。
- キシレン:IPA(3:1)溶液を使用するため、多くの試料、特に原油の溶解性が向上する
- 終点検出が試料の色の影響を受けない
- dThermoprobe(図1)はコンディショニングや追加の洗浄工程を必要とせず、溶媒で簡単にリンスするだけでよい
- dThermoprobeはメンテナンスフリーであり、電解液の補充は不要。乾燥状態で保管できる
TETは、ASTM D664またはASTM D2896に準拠した電位差滴定と比較して、さらに多くの利点を提供します。
- 使用する溶媒量が少ない:60 mLあるいは120 mLではなく30 mLで済むため、コスト削減と廃棄物削減につながります。
- 滴定時間が短い:TETは電位差滴定の約半分の時間で完了するため、分析1回あたり約2分短縮できます。
- 再現性が高い:dThermoprobeは洗浄が容易であるため、より高い再現性が得られます。
表1 では、ASTM D8045(サーモメトリック滴定)とASTM D664(電位差滴定)による酸価測定を比較しています。
| ASTM D664(電位差滴定) | ASTM D8045(サーモメトリック滴定) | |
|---|---|---|
| 滴定液 | 0.1 mol/L KOH(IPA溶液) | 0.1 mol/L KOH(IPA溶液) |
| 溶媒 | トルエン/IPA/水 | キシレン/IPA |
| 溶媒量 | 125 mL | 30–35 mL |
| 滴定時間 | 約220秒 | 約60秒 |
| 電極のコンディショニング | 3~5分 | 不要 |
| センサーのメンテナンス | 溶媒洗浄、再水和、IPA浸漬、電解液補充、エタノール中のLiCl溶液で保管 | 溶媒洗浄のみで十分 |
| 試料量 (予想酸価:0.05~1.0 mg KOH/g未満) | 20 ± 2 g | ~10 g |
塩基価のサーモメトリック測定に関するASTM規格については、現在、担当委員会において策定に向けた検討が進められています。塩基価を測定する場合、使用する滴定液や溶媒混合液は異なりますが、溶媒量、滴定時間、電極コンディショニング、およびセンサーのメンテナンスに関する値は、サーモメトリック法による塩基価測定とASTM D2896に準拠した電位差法による測定との比較を適切に反映しています。
滴定時間が短く、使用する溶媒量も少なく、さらに複雑なセンサーメンテナンスも不要なため、サーモメトリック滴定への切り替えによって大幅なコスト削減が可能です。
まだ導入に迷っていますか? ドイツのOELCHECK GmbHで勤務するThomas Fischer氏が、Metrohmのサーモメトリック滴定を導入した際の前向きな経験について語っています。
サーモメトリック滴定は、電位差滴定と比較していくつかの利点があります。まず、測定時間が大幅に短く、また堅牢性にも優れています。一般的なサーモメトリック滴定は約2分で完了します。さらに、電極を測定ごとに再生処理する必要もありません。
Thomas Fischer,
Laboratory Manager at OELCHECK GmBH
分析の実施方法
酸価(AN)または塩基価(BN)の測定では、それぞれ非常に弱い酸または塩基を滴定するため、反応に伴うエンタルピー変化はわずかです。こうした弱酸や弱塩基も、触媒終点指示薬を使用することでTETによる測定が可能になります。
触媒終点指示法とは?
終点検出は、弱酸や弱塩基のようにエンタルピー変化が小さいサーモメトリック滴定では困難になる場合があります。このような場合には、触媒終点指示薬を使用します。触媒終点指示薬は、滴定中に強い発熱反応または吸熱反応を起こします。
すべての被滴定成分が滴定された後に初めて色が変化する指示薬と同様に、触媒終点指示薬も、被滴定成分がすべて消費された後にのみ滴定液と反応を開始します。
この仕組みによって、終点を明確に検出することが可能になります。
酸価(AN)
予想される酸価(AN)に応じて適切な量の試料を滴定容器に秤量し、続いて溶媒混合液(イソプロパノール:キシレン = 1:3)30 mLとパラホルムアルデヒド0.5 gを加えます。別法として、パラホルムアルデヒドを溶媒混合液に懸濁させ、自動的に添加することも可能です。試料を溶解した後、アルコール性KOHで滴定し、単一の発熱型終点を検出します。
ここで、パラホルムアルデヒドは触媒終点指示薬として機能します。KOHが過剰になると、パラホルムアルデヒドは強い吸熱反応を伴って解重合します。その結果、温度が低下し、発熱型終点として検出されます。この原理を図2に示します。
このアプリケーションの詳細については、以下のアプリケーションブリテンをダウンロードしてください。
AB-427: Acid number in petroleum products with thermometric titration
塩基価(BN)
予想される塩基価(BN)に応じて適切な量の試料を直接滴定容器に秤量し、続いてイソブチルビニルエーテル(またはn-ブチルビニルエーテル)1 mLとトルエン40 mLを加えます。試料を溶解した後、氷酢酸中のHClO₄またはTFMSAを用いて滴定し、単一の吸熱型終点を検出します。
この場合、ブチルビニルエーテルは触媒終点指示薬として機能します。酸性の滴定液が過剰になると、ブチルビニルエーテルは強い発熱反応を伴って重合し、その結果として吸熱型終点が得られます(図3)。
このアプリケーションの詳細については、以下のアプリケーションブリテンをダウンロードしてください。
酸価および塩基価測定における触媒終点指示法の原理を、この短いアニメーションでご紹介します。
まとめ
サーモメトリック滴定は、電位差滴定や光度滴定と比較して、酸価および塩基価の測定において迅速かつ堅牢なソリューションを提供します。この手法では、より適した溶媒を使用することで試料の溶解性に関する問題に対応できます。さらに、必要な溶媒量が少なく、分析時間も短縮されます。これらの利点により、分析あたりのコストを大幅に低減できるため、TETは酸価および塩基価測定の有力な代替手法となります。