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【コラム】迅速性と基本の両立:電気化学測定の信頼性を左右する要因

【コラム】迅速性と基本の両立:電気化学測定の信頼性を左右する要因

2021/07/19

記事

あらゆる研究者にとっての究極の目標は、既知の限界を超えて探究を切り開くことにより、社会の発展に貢献することです。研究の種類や応用分野によっては、これを果たす一つの方法として、急速に(1ミリ秒未満で)進行するプロセスに関する信頼性の高い実験データを収集することが挙げられます。

 

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こうした反応機構の基礎を理解することは、最終的に新材料の発見や既存ソリューションの改良につながる可能性があります。電気化学研究では、サブミリ秒の時間スケールで電極表面において生じる電気化学プロセスの速度論とダイナミクスを測定することにより、反応機構と中間体が調査されます。

本記事では、実験セットアップの観点から、高速および超高速電気化学測定に直接影響を与える要因について、簡単な概要を示します。

このような測定において信頼性の高い実験結果を得るための第一条件は、実験の設計・実施において以下の要因を考慮することです。

「過渡電気化学」、すなわち非常に短い時間スケールで電気化学測定を行う際に、研究者が留意すべき追加的な課題については、E. Maisonhaute氏らによる特集記事で述べられています[1]。

過渡電気化学:単なる時間分解能を超えて

高速電気化学実験結果の信頼性に影響を与える主な要因

電気化学実験セットアップの主要な構成要素は、以下の通りです:

  • 電極および電解質を含む電気化学セル
  • 電気化学装置、すなわちポテンショスタット/ガルバノスタット(PGSTAT)

一般的に信頼性の高い電気化学実験を、特に高速電気化学測定を行うためには、システム全体の仕様を考慮した上で、実験セットアップの個々の部分すべてに最適な設定を使用する必要があります。

電気化学セルの時定数

電気化学セルおよびその仕様は、実験セットアップの重要な要素であるため、考慮に入れる必要があります。

過渡電気化学実験は、制御回路の高周波特性にかかわらず、セルの時定数が測定の時間スケールに対して十分に小さくない限り、意味を持ちません。

セルの時定数RuCdl(s)は、無補償抵抗Ru(Ω)(すなわち参照電極と作用電極の間の電解質の抵抗)と、電極の二重層容量Cdl(F)に直接依存します[2]。

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その結果、電位が急速にステップまたは掃引される場合、実際に測定される電位Etrue(V)は、以下の式に従って、印加電位Eappl(V)よりも遅れます:

ここで、RuCdl(s)はセルの時定数であり、t(s)は測定が行われる時刻です。

Figure 1. Theoretical and true waveform applied to a real electrochemical cell [1].
図 1. 実際の電気化学セルに印加される理論波形と真の波形[1]。

掃引速度が速い場合(すなわち、𝑡RuCdlよりもはるかに小さい場合)、指数項は1に近づき、𝐸appl(印加電位)に対する𝐸true(実測電位)の誤差が顕著に生じる可能性があります。掃引速度が遅い場合(すなわち、𝑡RuCdlよりもはるかに大きい場合)、指数項は0に近づき、誤差は無視できる程度になります。

セルの時定数は、以下の3つの方法で低減することができます:

  • 支持電解質の濃度を高めるか、粘度を下げることにより電解質の伝導度を高め、Ruを低減する
  • 作用電極のサイズを(例えばマイクロ電極を使用することにより)小さくし、Cdlを最小化する
  • 参照電極を(例えばルギン毛細管を使用することにより)作用電極にできる限り近づけ、Ruを最小化する

電気化学装置:ポテンショスタット/ガルバノスタット(PGSTAT)

ポテンショスタット/ガルバノスタット(PGSTAT)は、印加信号(電位または電流)を精密に制御し、電気化学セルからの応答(それぞれ電流または電位)を測定するために使用されます。印加信号の精密な制御は、制御ループ(またはフィードバックループ)回路を用いることにより達成されます。

ポテンショスタット/ガルバノスタットの作動原理について詳しくは、無料のアプリケーションノートをご覧ください。

ポテンショスタット/ガルバノスタット(PGSTAT)の作動原理の基本概要―電気化学セルセットアップ

高速電気化学測定が実施される場合、以下の仕様が結果に直接影響を与えるため、考慮する必要があります。

PGSTAT制御ループの帯域幅

一般的な用語で言えば、帯域幅とは、装置が信号の変化にどれだけ速く反応できるかを規定するパラメータとして説明することができます。

電気化学的な用語では、帯域幅とは、それを超えるとシステムの性能が低下する周波数のことです。

PGSTAT制御ループの帯域幅(すなわち装置の帯域幅)は、フィードバックループを通じて印加信号がどれだけ速く制御されるかを示します。

帯域幅が高いほど、装置がより速い制御ループ(より速いフィードバック)を使用することを意味します。その結果、印加信号は目標となる設定値により速く到達し、理想的な状況では出力信号は理論波形と同一になります。しかしながら、装置に接続された電気化学セルの特性によっては、印加信号がオーバーシュートすることがあります。極端な場合には、装置のフィードバックループが制御不能になり、ポテンショスタットが発振することもあります。これは、高容量の電気化学セルがPGSTATに接続されている場合に生じやすくなります。

より低い帯域幅を使用すると、制御ループの速度を落とすことによりPGSTATの全体的な安定性が高まります。この場合、非常に高い測定速度においては、より遅いスルーレートにより、印加信号の出力がわずかに不正確になる可能性があるという結果を伴います。それでもなお、実験の範囲内で高速な過渡現象の測定が必要でない場合には、高精度な実験結果を得るために、より低い帯域幅設定で装置を使用することが推奨されます。

Figure 2. Schematic representation of the applied signal when Low bandwidth (Low speed) and High bandwidth (High speed) settings are used compared with the theoretical response.
図 2. 低帯域幅(低速)設定および高帯域幅(高速)設定が使用された場合の印加信号を、理論的応答と比較した模式図。

したがって、測定の種類に応じて制御ループの帯域幅設定を選択することが重要です。超高速測定には、以下の点を考慮した上で、より高い帯域幅設定を使用する必要があります:

  • 帯域幅が高いほど、ノイズが大きくなり、制御ループが制御不能になり発振する可能性も高くなります。
  • 高帯域幅設定で作業する場合、特に注意を払い、適切なセルシールドおよび電極コネクタを使用する必要があります。このような場合には、ファラデーケージの使用が推奨されます。
  • 高インピーダンスの参照電極(RE)(例:二重接合参照電極、フリット付き塩橋)を制御ループの高帯域幅設定と組み合わせて使用すると、PGSTATが不安定になったり、発振に至ったりする可能性があります。

電流センサーの帯域幅(電流レンジ)

電気化学セルの電流応答の測定(定電位モード)、および印加電流値の制御(定電流モード)は、特別に設計された電流センサーによって実行されます。測定における最良の感度と分解能を達成するため、測定される(または印加される)電流の大きさに応じて、個々の電流センサーが使用されます。

各電流センサー回路(電流レンジに対応)には、固有の帯域幅または応答時間があります。したがって、最も正確な結果を得るためには(特に高速な時間分解実験において重要)、電流センサーの帯域幅が測定の時間応答(速度)の制限要因とならないよう、電流レンジを選択する必要があります。

一般的に、測定される電流が小さいほど、電流センサーの帯域幅は低くなります。

データサンプリング間隔と調査対象過渡信号の時間スケール

測定される電気化学応答は、多くの周波数成分を含む複雑な波形を持つことがあります。測定または印加される信号の最高周波数成分が、その信号の帯域幅を決定します。信号の帯域幅は、測定装置の帯域幅を超えてはなりません。

信号の最高周波数成分をfSIGNALとすると、ナイキストの定理[3]によれば、サンプリング速度fSAMPLEは少なくとも2fSIGNAL(すなわち、信号の最高周波数成分の2倍)である必要があります。

Figure 3. Effect of the sampling frequency of an ideal sinusoidal signal [3]. Shown here are the theoretical signal (dashed line), sample points, and resulting measured signal (orange line).
図 3. 理想的な正弦波信号におけるサンプリング周波数の影響[3]。ここに示すのは、理論信号(破線)、サンプル点、および結果として得られる測定信号(オレンジ色の線)です。

言い換えれば、データサンプリング間隔は、調査対象の電気化学プロセスから予想される時間分解(過渡)測定が生じる時間スケールよりも短くなければなりません。サンプリング間隔と装置の帯域幅の間には、実用上の相関関係があります。サンプリング間隔が:

  • 100 μsを超える場合:10 kHz(高安定性)の帯域幅を選択すべきです。
  • 10~100 μsの場合:100 kHz(高速)の帯域幅を選択すべきです。
  • 10 μs未満の場合:1 MHzの帯域幅(超高速)を選択すべきです。

まとめ

信頼性の高い実験データを測定するためには、実験セットアップのすべての要素について、それぞれの仕様と限界を考慮する必要があります。上記の概要は、高速電気化学測定に直接影響を与えうる主な要因とパラメータを示したものです。

参考資料

[1] Maisonhaute, E.; et al. Transient electrochemistry: beyond simply temporal resolution, Chem.Commun., 2016, 52, 251–263. doi:10.1039/C5CC07953E

[2] Bard, A.J.; Faulkner, L.R. Electrochemical Methods: Fundamentals and Applications, New York: Wiley, 2001, 2nd ed. Russian Journal of Electrochemistry, 2002, 38, 1364–1365. doi:10.1023/A:1021637209564

[3] Keim, R. The Nyquist–Shannon Theorem: Understanding Sampled Systems. All About Circuits, May 26, 2020. https://www.allaboutcircuits.com/technical-articles/nyquist-shannon-theorem-understanding-sampled-systems/

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作成者
Fromondi

Dr. Iosif Fromondi

Product Manager and Head of Marketing and Sales Support
Metrohm Autolab, Utrecht, The Netherlands

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