【コラム】有害な粒子状物質およびエアロゾルの連続的な大気質モニタリング
2023/07/10
記事
大気汚染は、世界保健機関(WHO)によって「大気本来の特性を変化させる化学的、物理的、または生物学的因子による屋内または屋外環境の汚染」と定義されています[1]。大気汚染レベルが高い場合、呼吸器疾患、心疾患、その他の疾病(例:がん)を引き起こす可能性があります。また、酸性雨の原因となり、農作物に被害を与え、植物の成長や生産性を低下させ、野生生物にも悪影響を及ぼします。世界人口の99%がWHOの大気質ガイドライン基準を超える空気を吸っていることから[1,2]、これは世界的に広がる問題となっています。さまざまな大気汚染物質の中でも、粒子状物質およびエアロゾルは特に懸念されています。本記事では、これらの大気汚染への寄与要因について説明し、大気質パラメータを連続的にモニタリングするために開発された2つの装置を紹介します。
粒子状物質およびエアロゾルの概要
粒子状物質(PM)は、一般的にガス中に浮遊する微小な固体粒子として定義されます。一方、エアロゾルは、ガス中に長時間浮遊し続ける微細な液滴または固体粒子を指します。これらはいずれも人体の健康に悪影響を及ぼす可能性があり、特に粒径が2.5 µm未満の場合(PM2.5、図1)にその影響が大きくなります。エアロゾルやPMは、火山噴火のような自然現象によって発生するほか、工業活動や輸送などの人為的活動によっても生成されます。そのため、これらの汚染物質の化学組成を分析することは、曝露後の長期的な影響を評価するだけでなく、発生源を特定し、排出削減対策を講じるためにも重要です。
ひとたび空気中に放出されると、これらの微小な粒子は長距離にわたって輸送され、その発生源から遠く離れた場所でも問題を引き起こす可能性があります。粒子径が小さいほど、呼吸器系のより深部まで侵入することができます。複数の研究によって、PMは健康問題(例:呼吸器疾患)や環境問題(例:視程障害)と関連していることが示されています[4–6]。比較的大きな粉じん粒子(PM10)は主に鼻毛で捕集されますが、微小粒子(PM2.5)は肺の奥深くまで到達して刺激を引き起こす可能性があります。一方、エアロゾルはPM粒子よりもさらに小さいため、大気中に長期間浮遊し続けることができます。
大気汚染が健康や環境に与える影響をより深く理解するためには、高い時間分解能で浮遊粒子の量および化学組成を測定できる正確な分析が必要です。しかし、代表性のあるサンプルの採取と、それに伴う分析は、大気モニタリングにおいて最も困難な部分です。
大気モニタリングの今昔
従来、PMおよびエアロゾルの分析は、サンプル採取と分析という2つのステップで構成されています。代表性のあるサンプルを採取するためには、適切なサンプリング装置および手法を使用することが重要です。
サンプル採取工程では、一般的にろ過法が用いられます。粒子はフィルターを装着した基材上に捕集され、一定期間後にフィルターを取り外して脱イオン水で抽出し、その後分析が行われます[7]。しかし、この方法では24時間以上の平均値しか求めることができません。さらに、この方法は煩雑で精度にも限界があり、連続オンライン測定を実施することはできません。
エアロゾルのイオン組成の変化を高感度で監視するためには、連続サンプリングが極めて重要です。しかし、それをどのように実現すればよいのでしょうか。
Metrohm Process Analyticsは、大気およびエアロゾル分析向け分析ソリューションの主要な提供企業として、この分野で豊富な経験と専門知識を有しています。当社は、高度な装置、ソフトウェア、およびアクセサリーからなる包括的な製品ラインアップを提供しており、大気中粒子の正確かつ信頼性の高い測定を可能にしています。
エアロゾル採取のための最も有望な装置は、しばしばスチームコレクターと呼ばれ、図2に示すMetrohm AeRosol Sampler(MARS)および2060 Monitor for AeRosols and Gases in Ambient Air(MARGA)です。
化学分析に関しては、MARS装置(図3)は陽イオンおよび/または陰イオン用イオンクロマトグラフ(IC)やボルタンメトリーシステムなどの湿式化学分析装置と接続して使用されます。一方、2060 MARGAには陰イオンおよび陽イオン用のICが統合されています(下の動画参照)。
両装置には、ガスデニューダー(Wet Rotating Denuder「WRD」、図4)、凝縮粒子成長サンプラー(Steam-Jet Aerosol Collector「SJAC」、図5)、ならびにポンプおよび制御装置が組み込まれています。これらの装置では、過飽和水蒸気環境中でエアロゾル粒子を液滴へと成長させる方法が採用されています。あらかじめキャリア水と混合された後、捕集された液滴は分析のためにサンプルループまたは濃縮カラムへ連続的に送られます。
MARSと2060 MARGAの比較 ― どちらを選ぶべきでしょうか?
MARSはエアロゾルのみをサンプリングするように設計されているのに対し、2060 MARGAは水溶性ガスも同時に測定することができます。従来のデニューダーでは、エアロゾルコレクター(成長チャンバー)の上流で空気サンプル中のガスを除去しますが、2060 MARGAでは、水溶性ガス成分をWRD内で捕集し、オンライン分析を行います。一方、ガスとは異なり、エアロゾルは拡散速度が低いため、WRDを干渉なく通過します。
2060 MARGAには、R(Research:研究用)およびM(Monitoring:モニタリング用)の2つの構成があります。2060 MARGA Rは、季節による大気質変動の研究などの研究キャンペーン向けに設計されています。使用しないときには、イオンクロマトグラフを切り離して他の試験室研究に転用することが可能です。より恒常的なソリューションとしては、24時間365日の大気質モニタリング向けに2060 MARGA Mが使用されます。
これに対し、MARSは、イオンクロマトグラフ(IC)、ボルタンメトリー(VA)装置、質量分析計(MS)、全有機炭素(TOC)分析計など、周囲環境または工業環境で使用されるさまざまな分析技術の前処理ユニットとして利用できます(図7)。また、オートサンプラーを使用してオフライン測定用サンプルを採取することも可能です。結果を即座に評価するために、MARSを任意の分析システムへリモート接続することもできます。一方、2060 MARGAには2台のICが統合されているため、他の分析技術を接続することはできません。
表1. 2060 MARGAとMARSの比較。2060 MARGA Rは着脱可能なイオンクロマトグラフを備えた研究用途向けモデルであり、2060 MARGA Mは2台のICを内蔵した専用の大気質連続モニタリング向けモデルです。
| MARS | 2060 MARGA | |
|---|---|---|
| サンプル量 | 大量の大気サンプル:0.5~1.0 m³/h | 大量の大気サンプル:0.5~1.0 m³/h |
| 汚染物質の種類 | エアロゾル分析専用 エアロゾル:Cl⁻、NO₃⁻、SO₄²⁻、F⁻、NH₄⁺、Na⁺、Ca²⁺、Mg²⁺、K⁺ | エアロゾルおよびガス分析 エアロゾル:Cl⁻、NO₃⁻、SO₄²⁻、F⁻、NH₄⁺、Na⁺、Ca²⁺、Mg²⁺、K⁺ ガス:HCl、HNO₃、HONO(HNO₂)、SO₂、NH₃、HF |
| MARSは、硫酸イオン、硝酸イオン、アンモニウムイオンなど、さまざまな汚染物質を測定できます。 | MARGAは、硫酸イオン、硝酸イオン、アンモニウムイオンなどのさまざまな汚染物質に加え、二酸化硫黄やアンモニアを含む微量ガスも測定できます。 | |
| 分析法 | さまざまな分析手法(例:IC、VAなど)と組み合わせ可能 | ICを2台内蔵 |
| 複数の分析手法 | 単一の分析手法 | |
| 時間分解能 | 連続大気モニタリング | 連続大気モニタリング |
| サンプル採取法 | SJAC | WRD および SJAC |
| 寸法 mm (W/H/D) | 660/605/605 | 2060 MARGA R: 660/930/605 2060 MARGA M: 660/1810/605 |
| 想定用途 | 研究 | 2060 MARGA R:研究キャンペーン 2060 MARGA M:専用連続モニタリング |
次のセクションでは、2060 MARGAとMARSによるエアロゾルのサンプリングおよび測定結果に相関性があるかどうかを比較します。2060 MARGAによるエアロゾル測定結果は高い精度を有することが知られているため[8]、良好な相関が得られれば、MARSもエアロゾルを正確に測定していることを示すことになります。
以下のグラフは、オランダのスヒーダムにおける周囲大気中のエアロゾルを、2022年6月6日から9日にかけて、2060 MARGAおよびMARSの両システムを用いてイオンクロマトグラフィーで測定した結果を示しています(図6)。2060 MARGAのサイクルタイムは60分(標準サイクルタイム)であるのに対し、MARSのサイクルタイムは30分です。データは両システムで類似した傾向を示していますが、MARSは2倍のデータ数を生成するため、2060 MARGAと比較してエアロゾル濃度データが高くなっています。このデータを移動平均によって60分間隔に補正すると、MARSと2060 MARGAが示す濃度はほぼ同等になります。
まとめ
大気汚染のモニタリングは、私たちが呼吸する空気中に存在する汚染物質の種類や濃度を把握するために極めて重要です。大気汚染への曝露は、呼吸器疾患、心血管疾患、さらにはがんを含む多くの健康問題を引き起こす可能性があります。また、酸性雨やオゾン層破壊の原因となり、気候変動にも寄与するなど、環境にも悪影響を及ぼします。その影響を理解し、曝露を低減するための効果的な戦略を策定するためには、Metrohm Process AnalyticsのMARSや2060 MARGAのようなツールを用いて大気質を測定することが重要です。こうした取り組みによって、私たちはより健康で持続可能な環境の実現に向けて前進することができます。
参考資料
[1] World Health Organization. Air pollution - Overview. https://www.who.int/health-topics/air-pollution (accessed 2023-06-22).
[2] WHO Global Air Quality Guidelines: Particulate Matter (PM2.5 and PM10), Ozone, Nitrogen Dioxide, Sulfur Dioxide and Carbon Monoxide; World Health Organization: Geneva, 2021. https://www.who.int/publications/i/item/9789240034228
[3] US EPA. Particulate Matter (PM) Basics. https://www.epa.gov/pm-pollution/particulate-matter-pm-basics (accessed 2023-06-22).
[4] Venners, S. A.; Wang, B.; Xu, Z.; et al. Particulate Matter, Sulfur Dioxide, and Daily Mortality in Chongqing, China. Environ. Health Perspect. 2003, 111 (4), 562–567. DOI:10.1289/ehp.5664
[5] Zhang, J.; Song, H.; Tong, S.; et al. Ambient Sulfate Concentration and Chronic Disease Mortality in Beijing. Sci. Total Environ. 2000, 262 (1–2), 63–71. DOI:10.1016/s0048-9697(00)00573-8
[6] US EPA. Health and Environmental Effects of Particulate Matter (PM). https://www.epa.gov/pm-pollution/health-and-environmental-effects-particulate-matter-pm (accessed 2023-03-27).
[7] Wang, D.; Jiang, J.; Deng, J.; et al. A Sampler for Collecting Fine Particles into Liquid Suspensions. Aerosol Air Qual. Res. 2020, 20 (3), 654–662. DOI:10.4209/aaqr.2019.12.0616
[8] Läubli, M. Air Monitoring by Ion Chromatography – a Literature Reference Review, 2018. https://www.metrohm.com/en/products/a/ir_m/air_monitoring_icv2.html